ミズニラ

胞子で増える! ニラっぽいシダ植物

  • 田んぼや池に生える。
    谷間の貧栄養な湿地(谷津田や谷戸という)に多い。
    写真 / 2025.10 千葉県 S.Ikeda

  • 太い塊茎から葉を出す。
    多少乾いていても生きていける。
    写真 / 2025.8 千葉県 S.Ikeda

  • 小さめの株。
    10cmほどしかないが、 大胞子のうはつけていた。
    写真 / 2024.6 千葉県 S.Ikeda

  • 葉を放射状にたくさん広げる。
    その外見はイネ科やカヤツリグサ科、 イグサ科っぽいが、 花が咲かず、 葉がよりやわらかくて折れやすい。
    写真 / 2025.8 千葉県 S.Ikeda

  • 葉の基部。 白っぽい。
    葉は外側から枯れ、 胞子が外へ流出する。
    見えている小さなツブツブは大胞子。
    写真 / 2025.8 千葉県 S.Ikeda

  • 葉をめくると、 基部に袋状の部分がある。
    これが胞子のうで、 中に胞子ができる。
    胞子のうには大きく2種類ある。
    写真 / 2025.8 千葉県 S.Ikeda

  • 大胞子のうと小胞子のう。
    葉1枚に1つの胞子のうがつくられ、 一般的に大胞子のうが外側の葉、 小胞子のうが内側の葉にできるとされる。 しかし写真の株では、 小胞子のうより内側の葉はすべて大胞子のうを作っていた。 小さな株では大胞子のうのみできる。
    写真 / 2025.8 千葉県 S.Ikeda

  • イネの脇に生えたもの。
    田んぼでは除草剤が使われていることがとても多く、 このような光景はなかなか見られない。
    写真 / 2024.6 千葉県 S.Ikeda

  • 放棄水田の藪に生えたもの。
    コガマやセイタカアワダチソウなどの大型の草本に覆われて、 光合成があまりできず白色化してきている。 自然界では洪水などのかく乱によって生育環境が維持されるが、 それがない場合は人間の手で耕起や草刈りをしないと、 いずれ消滅してしまう。
    写真 / 2025.8 千葉県 S.Ikeda

  • 1cmほどしかない幼株。
    一般的なシダは大人になるまで4年以上かかるが、 ミズニラは数か月で胞子のうをつけるようになる。
    写真 / 2025.8 千葉県 S.Ikeda

  • 全体。
    葉を全部取っても、 塊茎さえ生きていれば枯れない。
    ミズニラ科は、 ほかのシダ植物とは大きく異なり、 樹木に似て塊茎がわずかに二次肥大成長するという特徴がある。 これに関連して、 石炭紀の樹木「リンボク」の生き残りではないかという説がある。
    写真 / S.Ikeda

  • 大胞子のう。
    1つに数百もの大胞子ができる。
    その形は、 肉眼でもはっきりわかる。
    写真 / S.Ikeda

  • 小胞子のう。
    1つに数十万もの小胞子ができる。
    びっしりすぎて、 泥のように見える。
    写真 / S.Ikeda

  • 大胞子。
    乾いていると白っぽい。
    大胞子のうで作られ、 大きさ0.3~0.5mmほど。
    写真 / S.Ikeda

  • 大胞子の腹側(向心極面)。
    3本の隆起線があり、 Y字になる。
    腹側と背側境には、 環状に低い隆起線がある。
    いずれもミズニラ類共通の特徴。
    写真 / S.Ikeda

  • 大胞子の背側(遠心極面)。
    表面がきれいな多角形のハニカム構造になる。
    シナミズニラ系は不規則なうね状(文献ではよく鶏冠状と書かれる)になる。 ミズニラとの区別に限れば、 小胞子の方がやりやすい。
    写真 / S.Ikeda

  • 小胞子。
    淡いオレンジ色。
    とても小さく、 大胞子の1/10以下のサイズ。
    さらに拡大すると…
    写真 / S.Ikeda

  • 小胞子。
    小胞子のうで作られ、 大きさ25~40μmほど。
    表面はツルっとしているか、 わずかにイボがある程度。 ミズニラモドキやシナミズニラ、 オオバシナミズニラには顕著な刺状の突起が多数つく。
    写真 / S.Ikeda

特徴

単子葉類みたいな姿をしていますが、 これでもシダ植物。 湿地などに生え、 葉の付け根に胞子を多くつけます。 イネ科やカヤツリグサ科の草花に似ていますが、 花が咲かず、 葉がやわらかくて折れやすいです。 食用にはされません。
 
葉の長さ : 10~50cm、 時に100cm
観察の時期 : 春~秋(夏緑性)、 環境次第で一年草や常緑の多年草
生える場所 : 低地の水田や池沼、 小川
分布 : 本州、 四国、 朝鮮

※正確な(しゅ)の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。

ミズニラ科のシダ植物

水辺にひっそりと生える、 ニラそっくりで不思議なグループ。 日本に4(または5)種1変種あり、 その中でこのミズニラが最も身近に見られます。 タネではなく胞子で殖えるシダ植物ですが、 ワラビなど大部分のシダと大きく異なる「小葉植物」というグループに含まれます。 なんと1億年以上前からほとんど姿を変えず生き残ってきたため、 「生きた化石」と呼ばれています。 3億年前の石炭紀から知られる古代樹木リンボクの生き残りだという説もあります。
 
しかし、 そんな途方もない年月を生き延びてきても、 湿地の開発や除草剤、 アメリカザリガニの増加といった近年の人間活動で数がぐんと減ってしまいました。 2020年の環境省のレッドリストで、 ミズニラは準絶滅危惧(NT)に指定されています。 とはいえ、 このランク自体は低めで、 今でも自然が残る湿地や農薬を使っていない田んぼで多く見られることがあります。 じっくり探してみると、 案外ひょっこり出会えるかもしれません。

2つの大きさの胞子

ミズニラの葉の基部をじっくり観察すると、 大胞子のみつくる「大胞子のう」、 もしくは小胞子のみつくる「小胞子のう」を見つけることができます。 これを異形胞子性といい、 大胞子はメス、 小胞子はオスの役割があります。
 
この胞子ですが、 じつはミズニラ科の種類を見分けるために必要不可欠な特徴です。 ミズニラの近縁種はヒメミズニラを除いて外見がよく似ていて、 分類するには胞子の表面を顕微鏡で観察する必要があります。 それでもオオアカウキクサなどと異なり、 よく似た外来種が今のところ野生化しておらず、 ミズニラ科を見かけたらとりあえず保護対象とできるのは幸いかもしれません。 以下は日本に分布するミズニラ科の①大胞子、 ②小胞子、 ③その他の特徴です。
 
ミズニラ : ①ハチの巣状、 ②ほぼ平滑
ミズニラモドキ : ①ハチの巣状、 ②刺状突起多数
シナミズニラ : ①不規則なうね状、 ②刺状突起多数で長さ30μm以下
オオバシナミズニラ : ①不規則なうね状、 ②刺状突起多数で長さ30μm以上
ヒメミズニラ : ①小さな刺状で直径600μm以下、 ②ほぼ平滑、 ③高山の水中に生えて、 葉はより細くて気孔がほとんどなく、 胞子のうが蓋膜に覆われる
チシマミズニラ : ①破れた網目状で、 隆起線沿いに微細な突起が密につき、 直径600μm以上、 ②低い突起多数、 ③北海道の大雪山や知床などに記録があるがヒメミズニラの誤認といわれ、 一般的に知られる分布域はヨーロッパであり、 生えていない可能性の方が高い

  • ミズニラ胞子の走査電子顕微鏡(SEM)写真。
    大胞子は表面がハチの巣状になり、 腹側(向心極面)にYの字の隆起線がある。 小胞子は表面が平滑かわずかにイボがあり、 向心極面に1本の隆起線がある。
    写真 / S.Ikeda

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