オオアカウキクサ

但馬型で知られる日本固有のアゾラ

  • 水温変化の少ない田んぼや池に生える。
    アカウキクサ属を意味するアゾラ(Azolla)の一種。
    以降のスライド写真は、 撮影日から6年ほど前にDNA鑑定でアゾラ・ヤポニカと同定された個体群。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 水面を広く覆う。
    冬が近づくと、 日当たりが良い場所では紅葉する。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 条件がいいと分裂で爆増する。
    このような光景自体は今でも各地でよく見られるが、 そのほとんどが外来アゾラ(アイオオアカウキクサニシノオオアカウキクサ)となってしまった。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 夏場ではふつう緑色。
    ただし環境次第では夏でも紅葉している。
    写真 / 2025.6 東日本 S.Ikeda

  • 表面。
    四角形の1つ1つが葉。
    外来アゾラよりも正方形に近い傾向がある。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 水中の古い根。
    根毛はほとんどつかない。
    アカウキクサや外来アゾラはふつう根毛が目立つ。
    ただし但馬型でも、 若い根には根毛が多数つく。
    詳しくは後のスライドで紹介。
    写真 / 2025.6 東日本 S.Ikeda

  • 勢いが良かったり陸地ではモコモコと出る。
    アゾラはラテン語で「乾燥で死ぬ」という意味があり、 完全に乾くと短時間で枯死する。
    写真 / 2025.6 東日本 S.Ikeda

  • たくさん立ち上がったもの。
    このような株には胞子のう果が多くできる。
    ニシノオオアカウキクサの特徴とされることがある「イワヒバ状」はこれに近い。
    写真 / 2025.6 東日本 S.Ikeda

  • 胞子のう果。
    丸くて、 直径1.5mmほど。
    初夏頃、 植物体の裏側にできる。
    写真 / 2025.6 東日本 S.Ikeda

  • 全形。
    アメーバ状で、 外来アゾラよりも大型。
    アカウキクサは三角状で区別が容易。
    葉も1~2mmと大きい。
    写真 / S.Ikeda

  • 裏面。
    茎から多数の根が伸びる。
    写真 / S.Ikeda

  • 葉。
    ウロコ状に茎の上を覆う。
    その表面に注目しよう。
    写真 / S.Ikeda

  • 葉の表面に1細胞のイボ状突起がたまにある。
    外来アゾラはいずれも突起がより目立つ。 アメリカオオアカウキクサは多くが2細胞となり、 ニシノオオアカウキクサは全て1細胞、 両者の雑種のアイオオアカウキクサは1細胞に2細胞が混ざるとされるが、 これだけでの見分けは難しい。 少なくとも2細胞の突起が確認できれば外来種となる。
    写真 / S.Ikeda

  • 時に大きな突起が見られることも。
    図鑑ではよく「突起が目立たない」と書かれるが、 主観的な要素が強く、 時に目立つといえるほどの突起がつく。 この場合ニシノオオアカウキクサとの区別が難しいが、 葉の大きさや、 後のスライドに登場するグロキディウムを比較するとより確実に見分けられる。
    写真 / S.Ikeda

  • 茎には突起がない。
    アカウキクサには突起が多い。 全形が分かりにくい乾燥標本では、 ここの突起の有無でアカウキクサと容易に区別することができる。
    写真 / S.Ikeda

  • 伸びきった若い根。
    図鑑では「根毛がない」とよく書かれる。
    ただ、 実際に見ると…
    写真 / S.Ikeda

  • 根の下部に、 肉眼で見えにくい根毛が多数つく。
    この根毛は早期に抜ける。 つまり図鑑によくある「根毛がない」という表記は誤りの可能性が高い。
    写真 / S.Ikeda

  • 小胞子のう果。
    2組ずつつけ、 中で多数の小胞子のうができる。
    大胞子のう果は但馬型ではできないと述べている論文(渡辺, 2006)があり、 実際に筆者も確認できていない。
    写真 / S.Ikeda

  • 小胞子のうを覆う包膜を割ると、 中から4個ほどの球状体が出てくる。 これをマスラ(massula)という。
    マスラの周りに生えているものは先が錨状に曲がった突起で、 グロキディウム(glochidium)と呼ばれている。
    写真 / S.Ikeda

  • グロキディウム。
    中に隔壁(かくへき)という仕切りがある。
    その位置と本数に注目!
    写真 / S.Ikeda

  • 隔壁はグロキディウムの先端近くに3本以上で多数。
    これは葉や根より重要な外来アゾラとの識別方法。 最初に但馬型を記載した論文(Suzuki et al., 2005)でも、 区別点としてまとめられている。
    アメリカオオアカウキクサは全体に2本以上つく。 ニシノオオアカウキクサは隔壁がないか、 先端近くに1本(まれに2本?)だけある。 雑種のアイオオアカウキクサはそもそも胞子のう果をほとんど作らず、 できた場合はオオアカウキクサに似て先端近くに多数つくという。 ただ写真の上から4本目のグロキディウムように、 基部側にも隔壁が数本あるように見えるものも混じっていて(青矢印)、 多少の変異はあるのかもしれない。
    写真 / S.Ikeda

特徴

自然豊かな水辺に浮かぶ水生シダ。 植物体は不規則なアメーバ状の形をしていて、 ウロコみたいな葉に覆われます。 冬が近づくと、 鮮やかなピンク色に紅葉してきれいです。 初夏頃、 まれに茎の下に胞子のう果をつけます。 近年猛威を振るっている外来種のアカウキクサ属(外来アゾラ)とは、 葉がより大きくて表面の突起が小さめで、 水中に伸びる根につく根毛が早く抜けてしまうことなどで異なりますが、 区別が難しいです。 もう1つの在来種であるアカウキクサは、 植物体が三角形なので簡単に区別できます。
 
大きさ : 幅1~7cm、 葉長1~2mm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 湧水の出る池沼や水路
分布 : 本州、 四国、 九州

※正確な(しゅ)の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。

日本固有の貴重なアゾラ

本種はオオアカウキクサ但馬型(たじまがた)といわれてきた日本固有種です。 かつて東日本を中心によく見られ、 水田害草として嫌われていたといいます。
 
ところが、 宅地開発や除草剤によって大きく数を減らしました。 さらに追い打ちをかけるように、 1990年代からアイガモ農法に本種より丈夫な外来アゾラが使われ、 野生化してしました(詳しくはこちら)。 但馬型は夏の暑さに弱く、 混生していると競争に敗れてしまいます。 さらに非常にデリケートであり、 わずかな環境の変化で瞬く間に消滅してしまいます。
 
その結果、 2012年の第4次環境省レッドリストから絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されるようになりました。 これはアカウキクサと同じであり、 同じ水生のシダで幻の存在になりつつあるデンジソウサンショウモの絶滅危惧Ⅱ類(VU)、 ミズニラの準絶滅危惧(NT)よりも上のランク。 動物では、 なんとゲンゴロウやタガメ、 オオサンショウウオ、 キタノメダカ(いずれも絶滅危惧Ⅱ類)より上です。
 
なお、 但馬型の由来である兵庫県の但馬地域のものは、 外来アゾラの増加によって、 ほぼ絶滅してしまいました。 また、 これとは別に分けられた大和型はニシノオオアカウキクサ、 阿波型はアゾラで唯一特定外来生物に指定されているアメリカオオアカウキクサと同種だと考えられています。 アカウキクサ属(アゾラ)の種類ごとの特徴については、 こちらのページにまとめています。

  • 代表的な水生シダと環境省レッドリスト2020。
    いずれも高く指定され、 かなり危機的。
    そして、 どれもこれもシダっぽくない。
    写真 / いずれもS.Ikeda

外来アゾラとの見分け方

オオアカウキクサ但馬型と外来アゾラは、 どちらも植物体がアメーバ状で非常によく似ており、 現時点で100%確実に見分けるにはDNA鑑定が必要です。 ただし顕微鏡を使用できるなら、 筆者の経験を踏まえた以下の5つの特徴を押さえることで、 両者の区別は可能と考えられます。 なお、 ここでの「外来アゾラ」は、 アメリカオオアカウキクサ、 ニシノオオアカウキクサアイオオアカウキクサの3種を指しています。
 
①葉の長さと形状
視覚的にもわかりやすい特徴。 葉の長さは但馬型で1~2mmになり、 1mmを下回ることが多い外来アゾラよりも明らかに大きくなります。 さらに、 但馬型は葉が正方形になる傾向があります。 植物体全体も但馬型のほうが大きめですが、 湧水地では外来アゾラも大きくなることがあります。
 
②葉の表面の突起
調べるのに顕微鏡が必要な特徴。 但馬型の突起は1細胞で小さめ。 一方、 外来アゾラは表面のツブツブが目立つことが多く、 特に2細胞からなる突起があれば外来アゾラと判断できます。 ただし、 外来アゾラでも突起が目立たないことがあり、 これだけで但馬型とすることはできません。
 
③根につく根毛の有無
区別点にされやすい特徴。 但馬型は「根毛がない」、 外来アゾラは「根毛が多い」と官公庁を含めた文献によく書かれています。 この違い自体は重要で、 野外で根毛が多くついているのを確認できたら、 ほぼ外来アゾラと思っていいでしょう。 しかし、 外来アゾラでも古い根では時に目立たなかったり抜け落ちているほか、 伸び途中の根では膜で根毛が隠れているため、 野外で「根毛がない」だけで但馬型と判断するのはリスクがあります。 さらに筆者の確認した但馬型では、 伸び切って膜が抜けた根の先近くには、 早落性の小さな根毛が多数ついていました。 すべての但馬型に当てはまるか不明ですが、 この特徴はいくつかの専門的な文献でも書かれているため、 「根毛がない」という書き方は誤りの可能性が高いです。
 
④グロキディウムの隔壁
論文でも示されている、 DNA以外では最も信頼できる特徴。 胞子のう果にできる球状体(マスラ)につく錨状の突起をグロキディウムといいます。 このグロキディウム内部にある仕切り(隔壁)の本数と位置が種類によって違い、 但馬型は先端近くに3本以上できます。 対してニシノオオアカウキクサでは隔壁がないか、 まれに先端近くに1~2本しか見られません。 アメリカオオアカウキクサは全体に多数の隔壁をもつ傾向があります。 この識別法の最大の問題点は、 オオアカウキクサ類が胞子のう果をあまり作らず、 観察が難しいところにあります。
 
⑤生えている環境と栽培のしやすさ
雰囲気でわかる特徴。 但馬型は水温の安定した湧水がある水辺を好みます。 一方、 外来アゾラは直射日光がガンガン当たるような平地の田んぼでも旺盛に増殖します。 とはいえ、 現状では湧水地でも外来アゾラに置き換わっているところが多くなっています。 また、 筆者が但馬型とニシノオオアカウキクサを同じ条件で育てたところ、 1か月後に但馬型は個体数が1/10以下になったのに対し、 ニシノオオアカウキクサは約5倍に増加しました。 外来アゾラには、 栽培が禁止されている特定外来生物のアメリカオオアカウキクサが含まれているところがネックですが、 栽培難易度の差も判断材料になりえるかもしれません。
 
以上から、 まずは①の大きさ、 ③の根毛、 ⑤の生育環境から但馬型かの見当をつけ、 可能性があるならばそれ以外の特徴も観察して総合的に判断するのが良いと思われます。

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