外来種のアカウキクサ属(以降は外来アゾラと呼ぶ)は、 1990年代から日本で「合鴨農法(あいがものうほう)」に活用されるようになりました。
合鴨農法とは水田にアイガモを放すことで水田雑草を食べてもらい、 稲刈り前には捕獲して食肉にするという、 農業と畜産が同時に行われるような無農薬農法のこと。 外来アゾラは丈夫ですぐ一面を覆うことから雑草が生えるのを防ぎ、 アイガモの餌になるということで合わせて利用されることがあります。 また、 アゾラは藍藻類と共生しているので貧栄養に強く、 成長した植物体をそのまま肥料として使う「緑肥(りょくひ)」に活用されることもあります。
ところが、 やって来た水鳥の足に付くことで他の水辺まで運ばれ、 そこで大繁殖してしまうという事態も起こりました。 特に雑種ではないアメリカオオアカウキクサ(アゾラ・クリスタータ)は在来アゾラとの交雑を起こしてしまうということで特定外来生物に指定される事態に。
環境への配慮で開発された人工雑種のアイオオアカウキクサはその後も利用されているのだとか。
ところが環境に優しいかといわれるとそうではなく、 今でも運ばれ大増殖して生態系を崩すことがあります。 さらに、 在来アゾラと一緒に生えていると、 暑さに強くて丈夫なので、 いずれはほとんど外来アゾラに置き換わってしまうといわれています。 加えて、 池を一面真っ赤にして異様な光景にしたり、 水道管を詰まらすなど人々の生活に影響を与えることもあります。 ただ大変なのはそこだけではありません。 話は下に続く。
アイオオアカウキクサ(雑種)
各地で大発生している外来アゾラ
特徴
田んぼなどの水面に浮かんで生活する水生シダ。 アメリカオオアカウキクサ(特定外来生物)とニシノオオアカウキクサ(外来種?)の人工雑種といわれ、 各地で大発生して問題になっています。 冬が近づくと植物体が真っ赤に染まります。
大きさ : 幅1cm, 葉の長さ1mmほど
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 水田や池沼
分布 : 各地で野生化
外来アゾラの長い話その1 : 増えた原因は「人間」と「鳥」
外来アゾラの長い話その2 : 似た仲間との区別が難しい!
日本で見られるオオアカウキクサ、 アイオオアカウキクサ、 アメリカオオアカウキクサ、 ニシノオオアカウキクサの4種は見た目がとてもよく似ています。 根毛が多めで、 顕微鏡で多少なりとも葉の表面に突起が確認できた場合は、 ほぼ確実に後者3種いずれかの外来アゾラですが、 さらに詳しく種類を見分けるにはDNA鑑定が必要だといわれています。
外来アゾラが日本固有種のオオアカウキクサ(アゾラ・ヤポニカ)と誤認されるケースが多いですが、 本種は2020年の環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定されているくらい少ないので滅多に見られません。 こちらは根毛が早く抜け落ちてしまってほとんどないことが大きな特徴で、 外来アゾラと区別するための有力な手掛かりとなります。 基本的に在来か外来かの区別が重要なので、 まずは根毛を意識すると良いです。 ただし、 外来アゾラも野外では根毛が見えにくいことがあり、 もう1つの在来種のアカウキクサ(全体の形状が正三角形で識別は容易)も根毛が多いので注意が必要です。
ちなみに…顕微鏡で見るためには普通は持ち帰らないといけませんが、 もしも運んだものがアメリカオオアカウキクサだった場合、 特定外来生物なので法律違反していることに!
つまり外来アゾラと疑われた段階で、 特定外来生物だと思って行動する必要が出てしまうのです。
執筆協力 : アゾラに詳しい兵庫県立人と自然の博物館の鈴木武先生に、 執筆にあたりご意見を頂きました。