日本産の本種は、 かつて「オオアカウキクサ大和型」と呼ばれていましたが、 後にアメリカ大陸原産のニシノオオアカウキクサと同種であると考えられるようになりました。 以降、 本種は外来種のアカウキクサ属(外来アゾラ)とみなされ、 各地で大発生した際には駆除されるようになりました。
そもそもこの問題の発端は、 1990年代にまでさかのぼります。 日本ではこの時期から、 肥料やカモの餌として外来アゾラが農業利用されていましたが、 各地で野生化して爆発的に増えてしまったのです(詳しくはこちら)。 その結果、 この農法に導入されたアメリカオオアカウキクサやアイオオアカウキクサといった外来種の存在が広く知られるようになりました。 一方、 ニシノオオアカウキクサがこの農法のために持ち込まれたのかは、 現時点ではっきりとわかっていません。 そのためか、 外来生物法で「特定外来生物」に指定されているアゾラは、 2024年現在でアメリカオオアカウキクサ(アゾラ・クリスタータ)のみであり、 ニシノオオアカウキクサや交雑しないアイオオアカウキクサは指定されていません。
なので一応、 栽培や運搬などの法規制の対象外です。 しかし、 外来種である可能性自体は高いとされます。 古い標本記録でも1980年代と新しめであり、 例えば輸入されたスイレン鉢に紛れ込んでいたなど、 農業利用以外で人に持ち込まれた可能性も考えられています。 事実、 ニシノオオアカウキクサの増殖力はとても大きく、 各地の生態系に影響を与えていることは確かであり、 在来アゾラのアカウキクサやオオアカウキクサの生育を脅かしている可能性が高いです。 そのことから、 法的拘束力はないものの、 周知を目的として作られた環境省の生態系被害防止外来種リストでは、 外来アゾラ類が一括で最高ランクの「緊急対策外来種」に指定されています。 これは有名なアライグマ、 オオクチバス、 カミツキガメなどの特定外来生物と同ランクです。
とはいえ、 そもそも外来種とは「本来いなかった場所に、 人間によって持ち込まれた生き物」のことを指します。 池の水面がアゾラで真っ赤に染まっているとき、 在来種なら「美しい」と感じ、 外来種なら「異様だ」と評価するのは、 人間の身勝手さが表れているともいえるでしょう。 ニシノオオアカウキクサは今でもネット通販などで売られている光景をよく目にしますが、 本当に環境のことを考えるのなら、 少なくとも人の手で分布を広げないという意識が求められてきそうです。
なお、 アカウキクサ属(アゾラ)の種類ごとの特徴については、 こちらにまとめています。
ニシノオオアカウキクサ
東日本にも進出しているアゾラ
特徴
田んぼなどで見られる水生シダ。 全体不規則なアメーバ状の形をしていて、 ウロコみたいな葉に覆われます。 冬が近づくと紅葉して、 水面を赤く染めてきれいです。 初夏頃、 たまに茎の下に胞子のう果をつけます。 日本固有種のオオアカウキクサによく似ていますが、 葉が一回り小さく、 その表面に目立つ突起が多くつきます。 根には根毛が多数つきますが、 古い根だと抜け落ちてしまっていることも多いです。
大きさ : 幅1~4cm、 葉長0.6~1.1mm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 水田や池沼
分布 : 本州、 四国、 九州(北米原産で世界各地に野生化?)
※正確な種の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。
