ニシノオオアカウキクサ

東日本にも進出しているアゾラ

  • 田んぼや池に見られる。
    アカウキクサ属を意味するアゾラ(Azolla)の一種。
    写真 / 2024.11 静岡県富士宮市 S.Ikeda

  • クレソン田を広く覆う。
    冬が近づくと一面真っ赤になることが多い。
    写真 / 2024.11 静岡県富士宮市 S.Ikeda

  • 夏場ではふつう緑色。
    時に茎が伸長するので、 イワヒバ状と例えられる。
    写真 / 2024.8 静岡県富士宮市 S.Ikeda

  • 田んぼを広く覆う。
    アゾラはラテン語で「乾燥で死ぬ」の意味がある。
    写真の群生は、 冬に水が抜かれて完全に消滅した。
    写真 / 2024.8 静岡県富士宮市 S.Ikeda

  • 水中の長い根に根毛が多くつくが、 写真のように古い根ではほとんど抜けてしまっていることもある。 日本固有種のオオアカウキクサに根毛はほとんどないので、 これに酷似している。
    写真 / 2024.8 静岡県富士宮市 S.Ikeda

  • 水から上げると根毛はさらにわかりにくい。
    写真 / 2024.8 静岡県富士宮市 S.Ikeda

  • 富士山の湧水の影響でモコモコと巨大化した株。
    オオアカウキクサと間違えそうだが、 葉の表面に目立つ突起が多い、 若い根に根毛が多数発達するなど、 外来アゾラの特徴を一通り確認できた。 次スライド以降の顕微鏡写真は、 この株のものである。
    写真 / 2024.11 静岡県富士宮市 S.Ikeda

  • 全形。
    アメーバ状で、 オオアカウキクサよりもやや小さめ。
    アカウキクサは三角形なので大きく異なる。
    葉は1mmを下回ることが多く、 2mm近くになるオオアカウキクサよりも明らかに小さい。
    写真 / S.Ikeda

  • 裏面。
    茎から多数の根が伸びる。
    写真 / S.Ikeda

  • 葉。
    表面のイボ状突起が目立つ。
    この突起の細胞の数に注目。
    写真 / S.Ikeda

  • 突起は全て1細胞の高さがあり、 2細胞はない。
    オオアカウキクサは突起が目立たず、 アメリカオオアカウキクサは多くが2細胞となり、 雑種アゾラのアイオオアカウキクサは1細胞に2細胞が混じるとされるが、 これだけで見分けるのは難しい。 少なくとも2細胞の突起が確認できれば外来種となる。
    写真 / S.Ikeda

  • 茎には突起がない。
    アカウキクサには1細胞の長い突起が多い。
    写真 / S.Ikeda

  • 古い根の拡大。
    肉眼ではわからないレベルの根毛が残っている。
    写真 / S.Ikeda

特徴

田んぼなどの水面に浮かんで生活する水生シダ。 全体アメーバ状の形をしていて、 ウロコみたいな葉に覆われます。 冬が近づくと紅葉して、 水面を赤く染めてきれいです。 日本固有種のオオアカウキクサによく似ていますが、 葉が一回り小さく、 その表面に目立つ突起が多くつきます。 根には根毛がびっしりつきますが、 古い根だと抜け落ちてしまっていることも多いです。 名前に西とつきますが、 東日本でも確認されています。
 
大きさ : 幅1~4cm、 葉長0.6~1.1mm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 水田や池沼
分布 : 本州、 四国、 九州(北米原産で世界各地に野生化?)

※正確な(しゅ)の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。 ​

本当に外来種か

日本産の本種は、 かつて「オオアカウキクサ大和型」と呼ばれていましたが、 後にアメリカ大陸原産のニシノオオアカウキクサと同種であると考えられるようになりました。 以降、 本種は外来種のアカウキクサ属(外来アゾラ)とみなされ、 各地で大発生した際には駆除されるようになりました。
 
そもそもこの問題の発端は、 1990年代にまでさかのぼります。 日本ではこの時期から、 肥料やカモの餌として外来アゾラが農業利用されるようになりました。 しかし、 鳥の足に付いて運ばれることで野生化してしまい、 各地で被害を出しはじめてしまったのです(詳しくはこちら)。 その結果、 この農法に導入されたアメリカオオアカウキクサや雑種アイオオアカウキクサといった外来種の存在と脅威が広く知られるようになりました。 一方、 ニシノオオアカウキクサがこの農法のために持ち込まれたのかは、 現時点ではっきりとわかっていません。 そのためか、 外来生物法で「特定外来生物」に指定されているアゾラは、 2024年現在でアメリカオオアカウキクサ(アゾラ・クリスタータ)のみであり、 ニシノオオアカウキクサや交雑しないアイオオアカウキクサは指定されていません。
 
なので一応、 栽培や運搬などの法規制の対象外です。 しかし、 外来種である可能性自体は高いとされます。 古い標本記録でも1980年代と新しめであり、 例えば輸入されたスイレン鉢に紛れ込んでいたなど、 農業利用以外で人に持ち込まれた可能性も考えられています。 事実、 元から日本にいるオオアカウキクサなどの生育を脅かしている可能性が高いうえ、 アゾラはいずれも外見がよく似ており、 識別が難しいことも問題視されています。 さらに、 法的拘束力はないものの、 周知を目的として作られた環境省の生態系被害防止外来種リストでは、 外来アゾラ類が一括で最高ランクの「緊急対策外来種」に指定されています。 これはアライグマ、 オオクチバス、 カミツキガメなどの有名な特定外来生物と同ランクです。 ニシノオオアカウキクサは今でもネット通販などで売られている光景をよく目にしますが、 本当に環境のことを考えるなら、 分布を人の手で広げさせない意識が求められてきそうです。