オオアカウキクサ

但馬型で知られる日本固有のアゾラ

  • 田んぼや池に見られる。
    アカウキクサ属を意味するアゾラ(Azolla)の一種。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 冬が近づくと、 日当たりが良い場所では紅葉する。
    外来アゾラよりも明るい色の傾向がある。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 1つの植物体。
    茎はアメーバ状に枝分かれする。
    近縁のアカウキクサは三角形なので区別が容易。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 表面。
    四角形の1つ1つが葉。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 葉には突起が見られるが、 小さくて目立たない。
    アカウキクサや外来アゾラは突起が目立つ。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 水中の古い根に根毛はほとんどつかない。
    アカウキクサや外来アゾラはふつう根毛が多い。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 条件がいいと分裂で爆増し、 水面を広く覆う。
    このような光景自体は今でも各地でよく見られるが、 そのほとんどが外来アゾラとなってしまった。
    写真 / 2025.1 東日本 S.Ikeda

  • 全形。
    アメーバ状で、 外来アゾラよりも大きい。
    葉も1~2mmと大きい。
    写真 / S.Ikeda

  • 葉。
    ウロコ状に茎の上を覆う。
    表面に注目。
    写真 / S.Ikeda

  • 葉の表面に小さい1細胞のイボ状突起がたまにある。
    外来アゾラはいずれも突起がより目立つ。 アメリカオオアカウキクサは多くが2細胞となり、 ニシノオオアカウキクサは全て1細胞、 両者の雑種のアイオオアカウキクサは1細胞に2細胞が混ざるとされる。 少なくとも2細胞の突起が確認できれば外来種となる。
    写真 / S.Ikeda

  • 茎には突起がない。
    アカウキクサには突起が多い。
    写真 / S.Ikeda

  • 伸びきった若い根。
    膜が外れても根毛はほとんどついていない。
    外来アゾラはいずれも根毛がびっしりつく。
    ただ、 よく見ると…
    写真 / S.Ikeda

  • 根の下部に、 肉眼で見えにくい根毛がつく。
    この根毛は早期に抜ける。 つまり図鑑によくある「根毛がない」という表記は誤りの可能性が高い。
    写真 / S.Ikeda

特徴

湧水の出る、 自然豊かな田んぼなどに浮かんで生活する水生シダ。 全体アメーバ状の形をしていて、 ウロコみたいな葉に覆われます。 冬が近づくと、 鮮やかなピンク色に紅葉してきれいです。 初夏頃には、 まれに茎の下に胞子のう果をつけます。 近年猛威を振るっている外来種のアカウキクサ属(外来アゾラ)とは、 葉がより大きくて表面の突起が目立たず、 水中に伸びる根に根毛がほとんどないことなどで異なりますが、 よく似ていて区別が難しいです。
 
大きさ : 幅1~7cm、 葉長1~2mm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 湧水の出る水田や池沼
分布 : 本州、 四国、 九州

※正確な(しゅ)の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。 ​

日本固有の貴重なアゾラ

本種はオオアカウキクサ但馬型(たじまがた)といわれてきた日本固有種です。 かつて日本の広い範囲でよく見られ、 水田害草として嫌われていたといいます。
 
ところが、 宅地開発や除草剤などによって大きく数を減らしました。 さらに追い打ちをかけるように、 1990年代からアイガモ農法に本種より丈夫な外来アゾラが使われはじめ、 これが鳥の足に付いて運ばれるなどして野生化しだしました(詳しくはこちら)。 但馬型は夏の暑さに弱く、 混生していると競争に敗れてしまいます。 また、 外来アゾラとともに入ってきたと考えられるアカウキクサゾウムシなどの外来昆虫にも弱い可能性が高いです。
 
その結果、 様々な場所から急速に姿を消してしまい、 2012年の第4次環境省レッドリストから絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されるようになりました。 これは近縁のアカウキクサと同じであり、 同じ水生シダで幻の存在になりつつあるデンジソウサンショウモの絶滅危惧Ⅱ類(VU)より上のランクです。
 
なお、 但馬型の由来である兵庫県の但馬地域のものは、 外来アゾラの増加によって、 ほぼ絶滅してしまいました。 また、 これとは別に分けられた大和型はニシノオオアカウキクサ、 阿波型はアゾラで唯一特定外来生物に指定されているアメリカオオアカウキクサと同種だと考えられています。

  • 代表的な水生シダと2020年環境省レッドリスト。
    そのほとんどが高く指定され、 かなり危機的。
    そして、 どれもこれもシダっぽくない。
    写真 / いずれもS.Ikeda

但馬型と外来アゾラの違い

アゾラ自体は日本各地でよく見られますが、 そのほとんどが外来で、 元からいる2種(オオアカウキクサ但馬型とアカウキクサ)は滅多に見られません。 ぶっちゃけ、 日本のアゾラの99%は外来種といっても過言ではないと思われます。 しかもアカウキクサ以外はいずれもアメーバ状の形でよく似ているため、 外来アゾラを但馬型と間違えてしまう、 いわゆる誤同定がとても多いです。 ただ筆者の経験を含む、 以下の3つの特徴をつかんでおけば両者を区別可能と思われます。 ちなみに外来アゾラとは、 ここではアメリカオオアカウキクサ、 ニシノオオアカウキクサアイオオアカウキクサ(雑種アゾラ)の3種のことを指しています。 また、 もう1つの在来種アカウキクサは全体が三角形なので、 区別は容易です。
 
①大きさ
視覚的にもわかりやすい特徴です。 特に葉の長さは、 但馬型で1~2mmになり、 1mmを下回ることが多い外来アゾラよりも明らかに大きくなります。 植物体全体もより大きくなりますが、 湧水地では外来アゾラもやや大きくなります。
 
②葉の表面の突起
調べるのに顕微鏡が必要な特徴です。 但馬型は1細胞で小さく、 目立ちません。 それに対し外来アゾラは長くて目立ちます。 特に2細胞の突起があれば、 ほぼ確実に外来アゾラです。 ただ外来アゾラでも、 若葉では突起が目立たないことが多いです。
 
③根につく根毛の有無
区別点とされることが多い特徴です。 多くの図鑑で、 但馬型は「根毛がない」、 外来アゾラは「根毛が多い」とよく書かれています。 この違い自体は重要ですが、 外来アゾラでも古い根では時に目立たなかったり抜け落ちているほか、 伸び途中の根では膜に覆われ根毛が隠れているため、 野外で「根毛がない」だけで但馬型と判断するのは危険です。 また但馬型でも、 伸び切って膜が抜けた根の先近くには、 早落性の小さな根毛が多数つくと思われます。 なので「根毛がない」という書き方は誤りの可能性が高いです。 いずれにしても、 根毛は水から出すとわかりにくくなるので、 水中の根を確認するのが良いです。
 
さらに但馬型は水温変化の少ない湧水を好む、 紅葉が外来よりも明るいピンク色といった特徴も持ちます。 ただ湧水地でも今では外来アゾラに置き換わってしまっていることが多く、 紅葉は環境により濃淡差が出るので、 これだけで但馬型と判断することはできません。 以上からわかるように、 まずは①の大きいこと、 ③の根毛が見えないことから見当をつけ、 次にそれ以外の特徴も踏まえて総合的に判断するのがおすすめの見分け方となります。

  • アゾラ4種の比較。
    但馬型は他種より明らかに大きくなる。
    単体だと難しいが、 並べるとわかりやすい。
    写真 / S.Ikeda