本種はオオアカウキクサ但馬型(たじまがた)といわれてきた日本固有種です。 かつて日本の広い範囲でよく見られ、 水田害草として嫌われていたといいます。
ところが、 宅地開発や除草剤などによって大きく数を減らしました。 さらに追い打ちをかけるように、 1990年代からアイガモ農法に本種より丈夫な外来アゾラが使われはじめ、 これが鳥の足に付いて運ばれるなどして野生化しだしました(詳しくはこちら)。 但馬型は夏の暑さに弱く、 混生していると競争に敗れてしまいます。 また、 外来アゾラとともに入ってきたと考えられるアカウキクサゾウムシなどの外来昆虫にも弱い可能性が高いです。
その結果、 様々な場所から急速に姿を消してしまい、 2012年の第4次環境省レッドリストから絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されるようになりました。 これは近縁のアカウキクサと同じであり、 同じ水生シダで幻の存在になりつつあるデンジソウやサンショウモの絶滅危惧Ⅱ類(VU)より上のランクです。
なお、 但馬型の由来である兵庫県の但馬地域のものは、 外来アゾラの増加によって、 ほぼ絶滅してしまいました。 また、 これとは別に分けられた大和型はニシノオオアカウキクサ、 阿波型はアゾラで唯一特定外来生物に指定されているアメリカオオアカウキクサと同種だと考えられています。
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オオアカウキクサ
但馬型で知られる日本固有のアゾラ
特徴
湧水の出る、 自然豊かな田んぼなどに浮かんで生活する水生シダ。 全体アメーバ状の形をしていて、 ウロコみたいな葉に覆われます。 冬が近づくと、 鮮やかなピンク色に紅葉してきれいです。 初夏頃には、 まれに茎の下に胞子のう果をつけます。 近年猛威を振るっている外来種のアカウキクサ属(外来アゾラ)とは、 葉がより大きくて表面の突起が目立たず、 水中に伸びる根に根毛がほとんどないことなどで異なりますが、 よく似ていて区別が難しいです。
大きさ : 幅1~7cm、 葉長1~2mm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 湧水の出る水田や池沼
分布 : 本州、 四国、 九州
日本固有の貴重なアゾラ
但馬型と外来アゾラの違い
アゾラ自体は日本各地でよく見られますが、 そのほとんどが外来で、 元からいる2種(オオアカウキクサ但馬型とアカウキクサ)は滅多に見られません。 ぶっちゃけ、 日本のアゾラの99%は外来種といっても過言ではないと思われます。 しかもアカウキクサ以外はいずれもアメーバ状の形でよく似ているため、 外来アゾラを但馬型と間違えてしまう、 いわゆる誤同定がとても多いです。 ただ筆者の経験を含む、 以下の3つの特徴をつかんでおけば両者を区別可能と思われます。 ちなみに外来アゾラとは、 ここではアメリカオオアカウキクサ、 ニシノオオアカウキクサ、 アイオオアカウキクサ(雑種アゾラ)の3種のことを指しています。 また、 もう1つの在来種アカウキクサは全体が三角形なので、 区別は容易です。
①大きさ
視覚的にもわかりやすい特徴です。 特に葉の長さは、 但馬型で1~2mmになり、 1mmを下回ることが多い外来アゾラよりも明らかに大きくなります。 植物体全体もより大きくなりますが、 湧水地では外来アゾラもやや大きくなります。
②葉の表面の突起
調べるのに顕微鏡が必要な特徴です。 但馬型は1細胞で小さく、 目立ちません。 それに対し外来アゾラは長くて目立ちます。 特に2細胞の突起があれば、 ほぼ確実に外来アゾラです。 ただ外来アゾラでも、 若葉では突起が目立たないことが多いです。
③根につく根毛の有無
区別点とされることが多い特徴です。 多くの図鑑で、 但馬型は「根毛がない」、 外来アゾラは「根毛が多い」とよく書かれています。 この違い自体は重要ですが、 外来アゾラでも古い根では時に目立たなかったり抜け落ちているほか、 伸び途中の根では膜に覆われ根毛が隠れているため、 野外で「根毛がない」だけで但馬型と判断するのは危険です。 また但馬型でも、 伸び切って膜が抜けた根の先近くには、 早落性の小さな根毛が多数つくと思われます。 なので「根毛がない」という書き方は誤りの可能性が高いです。 いずれにしても、 根毛は水から出すとわかりにくくなるので、 水中の根を確認するのが良いです。
さらに但馬型は水温変化の少ない湧水を好む、 紅葉が外来よりも明るいピンク色といった特徴も持ちます。 ただ湧水地でも今では外来アゾラに置き換わってしまっていることが多く、 紅葉は環境により濃淡差が出るので、 これだけで但馬型と判断することはできません。 以上からわかるように、 まずは①の大きいこと、 ③の根毛が見えないことから見当をつけ、 次にそれ以外の特徴も踏まえて総合的に判断するのがおすすめの見分け方となります。