意外かもしれませんが、 ヒカゲノカズラは人々の生活において、 古くから様々なことに利用されてきました。
まず長く伸びる茎葉は、 神聖な飾りとして扱われてきました。 古事記の天岩戸神話では、 天宇受売命(あめのうずめのみこと)という女神がヒカゲノカズラを襷のように身につけたとされます。 万葉集にも、 ヒカゲノカズラを蘰(かずら)として身につけた歌が詠まれています。 冬も緑色で、 採った後も比較的長く色あせない姿が、 強い生命力や長寿の象徴とされたのでしょう。 現在でも正月飾りとして、 松竹梅やウラジロど同じく飾られることがあります。
そのほかドライフラワー(花ではないけど)や、 アクアリウムにおいてメダカの産卵床として今も使われています。
さらに胞子にも実用的な用途があります。 ヒカゲノカズラなどの胞子を集めた淡い黄色の粉末は、 石松子(せきしょうし)と呼ばれます。 現在もナシやリンゴなどの果樹の人工授粉で、 少量の受粉用花粉に混ぜて散布し、 花粉を節約する花粉増量剤として利用されています。
かつては胞子に脂肪油が多く含まれて水をはじくことから、 丸薬同士がくっつかないようにする衣としても使われていました。 燃えやすいことから、 手品における炎の演出や線香花火に使われたこともあります。
ヒカゲノカズラ
太古の力を感じさせるシダ植物
特徴
他の草があまり生えていないような裸地によく生えているシダ植物。 ヒモのような細長い主茎をはって、 そこから枝分かれした側枝を出します。 さらに、 側枝から細長い茎を立ち上げ、 先に2~4本の胞子のう穂をつけます。 葉は茎にらせん状につき、 葉先が糸のように細く伸びます。 名前には日陰とつきますが、 どちらかといえば日なたを好みます。
大きさ : 直立茎5~20cm、葉の長さ2~3mm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 明るい裸地や湿地など
分布 : 北海道、 本州、 四国、 九州、 屋久島、 奄美大島、 朝鮮、 中国、 極東ロシア
神話登場から受粉アシストまで
小葉植物
本種を含むヒカゲノカズラ科は、 イワヒバ科やミズニラ科とともに、 小葉植物(しょうようしょくぶつ)というとても古い歴史をもつグループに含まれます。
小葉植物は、 一般にシダと呼ばれるものを含む大葉植物(だいようしょくぶつ)とは系統的に大きく異なり、 現生の維管束植物のなかで最も早く分かれたグループと考えられています。 その起源は古生代にさかのぼり、 4億年以上前のデボン紀の地層からも、 ヒカゲノカズラ類に似た化石が見つかっています。
とはいえ現在のヒカゲノカズラが当時から全く姿を変えずに生き残ってきたわけではありません。 古代の小葉植物の多くが絶滅する中、 小さい姿で進化し続けながら現在まで長い系統をつないできたのです。 こうしたことを踏まると、 ヒカゲノカズラが生命力や長寿の象徴とされ、 神話に現れたり正月飾りに用いられることにも、 どこか納得がいくように感じます。
