見た目がそっくりでこれまでは同種とされていたものが、 遺伝子の違いによって別種に分けられたものを隠蔽種(いんぺいしゅ)といいます。 近年の技術の発展に伴い、 シダに限らず多くの生き物が遺伝子を調べることによって新種記載されるようになりました。 例えばシダではヌリトラノオのほかにオオイタチシダ、 ノキシノブ、 ミズワラビなどが、 それ以外ではウラギンヒョウモン、 メバル、 カキシメジなど多くの生き物が複数種に分けらています。
しかし、 遺伝子でようやく区別できるようになったということは、 見た目での区別が難しいということも示しています。 さらに、 分けられた種類が同所で見られることもよくあり、 別種を同種にする研究はあまり進まない傾向があります。 つまり研究が進むごとに、 一般目線から種類を見分けるのはむしろ難解になってしまうのです。
ナンカイヌリトラノオはその中では見た目での区別がしやすいですが、 雑種をよく作るグループであり、 特にヌリトラノオとカミガモシダの雑種は本種によく似ています。 そもそも1種増えることで、 その分雑種のパターンも増えています。 生物多様性を示せても見分けられず保全できなければ本末転倒ですので、 保全者に見分け方を伝授するのも研究者の1つの義務であるといえます。
ナンカイヌリトラノオ
南海地域の難解なヌリトラノオ
特徴
2020年にヌリトラノオから分けられて新種記載されたシダ。 ヌリトラノオよりも羽片は先が尖って基部上側がでっぱり、 フチのギザギザ(鋸歯)がより深めになります。 葉先にのみ無性芽をつけるのはヌリトラノオと同じです。 珍しいシダというわけではなく、 南側の太平洋沿い、 特に琉球にかけて多く分布します。
葉の長さ : 15~40cm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 低山の斜面など
分布 : 本州(伊豆諸島・伊豆半島以西)、 四国、 九州、 琉球
※正確な種の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。