ナンカイヌリトラノオ

南海地域の難解なヌリトラノオ

  • 低山の湿った斜面に生える。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 根茎を短く直立させて葉を多く出す。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 葉先。
    ここにだけ無性芽をつける。
    ヌリトラノオと同じ特徴。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 羽片。
    20~35対ある。
    ここにヌリトラノオとのわかりやすい違いがある。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 羽片の鋸歯はより深めになる。 そして基部上側には大きめの出っぱり(耳垂)があり、 一番先が鋭角で細く尖る感じになる。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 葉裏。
    胞子のう群は脈に沿ってややフチ寄りにつく。
    1つの羽片中に1~11個できる。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 胞子のう群。
    熟した胞子のうは正常に弾ける。
    雑種だと縮んでいることが多い。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 葉柄基部。
    濃い茶色の鱗片を多くつける。
    写真 / 2024.7 三重県 S.Ikeda

  • 胞子のう1つを壊したもの。
    有性生殖種なので、 できる胞子は64個(写真では50個程度見える)。 雑種の場合は胞子の形や大きさがいびつ。
    写真 / S.Ikeda

特徴

2020年にヌリトラノオから分けられて新種記載されたシダ。 ヌリトラノオよりも羽片は先が尖って基部上側がでっぱり、 フチのギザギザ(鋸歯)がより深めになります。 葉先にのみ無性芽をつけるのはヌリトラノオと同じです。 珍しいシダというわけではなく、 南側の太平洋沿い、 特に琉球にかけて多く分布します。
 
葉の長さ : 15~40cm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 低山の斜面など
分布 : 本州(伊豆諸島・伊豆半島以西)、 四国、 九州、 琉球

※正確な(しゅ)の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。 ​

研究が進むと区別は難解に?

見た目がそっくりでこれまでは同種とされていたものが、 遺伝子の違いによって別種に分けられたものを隠蔽種(いんぺいしゅ)といいます。 近年の技術の発展に伴い、 シダに限らず多くの生き物が遺伝子を調べることによって新種記載されるようになりました。 例えばシダではヌリトラノオのほかにオオイタチシダノキシノブ、 ミズワラビなどが、 それ以外ではウラギンヒョウモン、 メバル、 カキシメジなど多くの生き物が複数種に分けらています。
 
しかし、 遺伝子でようやく区別できるようになったということは、 見た目での区別が難しいということも示しています。 さらに、 分けられた種類が同所で見られることもよくあり、 別種を同種にする研究はあまり進まない傾向があります。 つまり研究が進むごとに、 一般目線から種類を見分けるのはむしろ難解になってしまうのです。
 
ナンカイヌリトラノオはその中では見た目での区別がしやすいですが、 雑種をよく作るグループであり、 特にヌリトラノオとカミガモシダの雑種は本種によく似ています。 そもそも1種増えることで、 その分雑種のパターンも増えています。 生物多様性を示せても見分けられず保全できなければ本末転倒ですので、 保全者に見分け方を伝授するのも研究者の1つの義務であるといえます。