ハチジョウベニシダ

受精して殖えるヒョロヒョロなベニシダ

  • 低山の林内に生え、 海沿いや離島に多い傾向がある。
    ベニシダより分布量はずっと少ない。
    写真 / 2025.6 千葉県 S.Ikeda

  • 根茎を斜上させて葉を出す。
    写真 / 2025.6 千葉県 S.Ikeda

  • 葉先。
    なだらかに細くなるものもあれば、 写真のように急に細くなって伸びるものがある。
    同種説のあるホコザキベニシダっぽさがある。
    写真 / 2025.6 千葉県 S.Ikeda

  • 羽片。
    ベニシダよりも質は薄く、 ペラペラ。
    小羽片はより細くて長く、 よくカマ状に曲がる。
    小羽片の切れ込みは深めで、 先はやや尖り気味。
    写真 / 2025.6 千葉県 S.Ikeda

  • 最下羽片。
    ここを中心にベニシダとくらべてみよう。
    写真 / 2025.6 千葉県 S.Ikeda

  • 最下羽片の葉軸に接する下向き小羽片は、 となりの小羽片より小さい。 とはいえベニシダより大きくて切れ込むことが多く、 時にとなりの半分以上の長さになることもある。
    写真 / 2025.6 千葉県 S.Ikeda

  • この小さな小羽片から数本先までは、 典型的なものであればベニシダより明らかに長くてヒョロヒョロしている。
    ただし短めのこともある。
    写真 / 2025.6 千葉県 S.Ikeda

  • 葉裏。
    胞子のう群は円形で脈寄りにつく。
    包膜はC形で、 中心が紅色または全体灰白色。
    写真 / 2024.7 千葉県 S.Ikeda

  • 葉柄基部。
    濃い茶色から黒色の鱗片がつく。
    写真 / 2024.7 千葉県 S.Ikeda

  • 葉軸。
    濃い茶色の鱗片がまばら。
    写真 / 2024.7 千葉県 S.Ikeda

  • 羽軸。
    鱗片基部が袋状にふくらむ。
    写真 / 2024.7 千葉県 S.Ikeda

  • 新芽。
    ベニシダと同じように紅色、 または緑色。
    写真 / 2025.4 千葉県 S.Ikeda

  • 若葉。
    最初は紅色でも、 緑色になる途中は黄色っぽい。
    写真 / 2025.4 千葉県 S.Ikeda

  • 平面写真。
    典型的な葉では、 ベニシダよりも葉質が薄く小羽片が明らかに長くなる。 ただ写真の個体程度の小羽片だと、 ベニシダでも同じくらい長いことがあり、 外見だけでハチジョウベニシダと断定するのは難しい。
    写真 / S.Ikeda

  • 葉裏の胞子のう群の拡大。
    透明の広い膜状のものが包膜で、 それを外すと現れる小さなツブツブ1つずつが胞子のう。 中で胞子がつくられ、 熟すと黒っぽくなる。 本種を正確に見分けるためには、 この中身を確認する必要がある。
    時期的には春出る葉が熟す7月くらいがベスト。
    写真 / S.Ikeda

  • 1つの胞子のうを壊したもの。
    有性生殖のハチジョウベニシダは胞子が64個できる。
    対してベニシダは無融合生殖という繁殖方法をとっていて、 半分の32個ができる。
    これが両種を識別する一番簡単で確実な方法。
    ちなみに両者の雑種(オオシマベニシダ)もあるので注意。
    写真 / S.Ikeda

特徴

東京都の八丈島に由来する、 ベニシダにとてもよく似たシダ。 本種はベニシダよりも質が薄くペラペラな感じで、 その小羽片は長く伸びてカマ状に曲がり、 切れ込みが深く、 先が尖ることが多いです。 新芽などは、 ベニシダと同じく紅色になるものとならないものがあります。 琉球に分布するホコザキベニシダとは見た目に連続性があり、 同種とする考えがあります。
 
葉の長さ : 50~100cm
観察の時期 : 一年中(常緑性)
生える場所 : 低山の林縁や林内
分布 : 本州(伊豆諸島・関東以西)、 四国、 九州、 済州島、 可居島

※正確な(しゅ)の判定は、 形態を細部まで見る必要があります。

見分けるには顕微鏡が必要

本種はベニシダと外見がとてもよく似ていますが、 その成り立ちを知っておくと両種の違いがわかりやすくなります。
 
近年の研究でベニシダは、 大昔にハチジョウベニシダとマルバベニシダが交雑して生まれたと考えられています。 マルバベニシダは、 ベニシダよりも葉が厚くパリパリとした質感で、 小羽片に丸みがあるのが特徴です。 つまりハチジョウベニシダは、 ベニシダからこの特徴を抜いたものだと意識しておくと見当をつけやすいです。 ただし、 この両種は外見がほぼ同じのことがあり、 これだけですべての個体を見分けるのは困難だともいわれています。
 
では、 どうすればしっかり見分けられるのかというと、 「胞子のう1個にできる胞子の数」を調べる必要があります。 ハチジョウベニシダは胞子を64個、 ベニシダは32個つくります。 ですが、 この胞子のうはとても小さく、 調べるには生物顕微鏡や専用のガラス板(プレパラート)など、 特別な道具が必要です。
 
この地道な胞子観察の積み重ねにより、 近年日本各地でハチジョウベニシダの自生地が新たに見つかっています。 もし学校や職場などで顕微鏡を使えるチャンスがあるなら、 ぜひ観察にチャレンジして、 誰も知らない自生地を発見してみてはいかがでしょうか。

  • 両種の比較。
    一番の違いは、 胞子のうにできる胞子の数。
    ベニシダは32個、 ハチジョウベニシダは64個つくり(写真ではいずれもやや少なく見える)、 胞子の大きさも違うことがわかる。
    写真 / S.Ikeda

有性生殖と無融合生殖

上の通り2種間でつくる胞子数が違うことを紹介しましたが、 これはハチジョウベニシダが「有性生殖」、 ベニシダが「無融合生殖」という異なる繁殖方法をとっているためです。 以下にその詳しい違いを書いていますが、 内容がちょっと難しいので、 興味ある方だけ読んでみてください。 結論からいうと、 無融合生殖の方が細胞分裂が1回少ないので半分になります。
 
※2倍体など倍数性の解説はハイホラゴケのページができ次第、 そちらに載せる予定です。
 
有性生殖(ゆうせいせいしょく)は、 受精をする繁殖方法のこと。 2倍体の場合、 親株は染色体数2nの細胞1個から、 4回の体細胞分裂と2段階ある減数分裂を行うことで染色体数nの胞子を64個(1×2×2×2×2×2×2)つくります。 これが発芽すると前葉体になり、 その中で卵子と精子ができます。 それぞれ染色体数はnなので、 受精すると2nになって親株と同じになり、 一般的なシダの姿(胞子体)に成長します。
 
無融合生殖(むゆうごうせいしょく)は、 受精をしない繁殖方法の一つ。 2倍体の場合、 親株は染色体数2nの細胞1個から、 3回の体細胞分裂と1回の染色体数倍化で4nの細胞を8個つくり、 そこから2段階ある減数分裂によって染色体数2nの胞子を32個(1×2×2×2×1×2×2)つくります。 発芽してできた前葉体は親株と同じ染色体数2nなので、 受精(融合)せずにそのまま胞子体に成長できてしまいます。
 
ちなみに、 日本に生えているシダのおよそ15%(マツサカシダホウビシダオオイタチシダテリハヤブソテツなど)が無融合生殖種であることがわかっています。 この利点として、 水が必須な受精をしないなどがあり、 都市緑地の斜面など乾燥しやすい場所にも見られる種類が多いです。